2012年12月7日金曜日

"探求〟野球道を考える 第5回-1

私が実践する指導の4本柱   桑田真澄氏

今、コーチにも問われるセルフコントロール能力

今回は、アマチュア野球界における新しい指導法のすすめについてお伝えしたいと思います。

 これまで連載で書いてきたとおり、日本の野球界では武士道精神に基づいた「誤解された野球道
」の指導理念が浸透していました。その結果、コーチは練習の「量」の重視、精神の鍛練、絶対服従という方針をいわば野球界の常識として貫いてきました。

 もちろん、こうした指導理念を長年にわたって継承してきたことで、ほぼすべての日本人選手が「あいさつや道具を大事にする姿勢」や反復練習を繰り返すことによる「基本プレーや連係プレーのレベルの高さ」など、世界に誇るべきスキルを備えているのはまぎれもない事実です。

  しかしながら、その裏側で故障者の続出、自ら考えて自律的に行動する姿勢の欠如、体罰やイジメなどの事件が繰り返し起きている実情は「誤解された野球道」の弊害にほかなりません。

 そして何より、23年間プロの世界でプレーしてきた僕が最も疑問に思うのは、従来の指導理念は現在の野球界を取り巻く環境にマッチしていないし、そもそも野球というスポーツの本質から少しずれているいること。その結果、若い選手が無限のポテンシャルを開花させる可能性を指導者自身が阻害しているという現実です。

 僕が指導の現場で感じていることは山ほどあるのですが、この場では常に日頃から心がけている4つのポイントに絞ってお伝えしたいと思います。

 第一のポイントは、技術指導をするうえで野球界の従来の常識を疑う姿勢です。たとえば打撃で「上から叩け」というアドバイスが聞かれますが、果たしてこの指導法は正しいのでしょうか。投手の僕からしたら、上から叩くだけのメカニック(身体動作)ほど打ち取りやすい打者いません。なぜならスイングと投球の軌道が一致するポイントが極めて狭いからです。この打ち方が普及した日本人の体格が恵まれず、またグラウンドも整備されていなかった戦前にイレギュラーヒットを狙うためだったと言われています。また上から叩く素振りを繰り返していた王貞治さんは「極端なアッパースイングのクセを修正するためにダウンスイングで練習していたが、試合ではレベルスイングからアッパースイングをしていた」と話されています。






 投球に関して、投手が野手と異なるのはマウンドという傾斜を利用して投げる点にあります。すなわち、マウンドに対応して傾斜を利用できることがよい投手の条件なのです。それでは投手はどのようなメカニックで投げることが理にかなっているのでしょうか。


 平地と急な下り坂では歩く時でさえ体重のかけかたが違うように、そのポイントは重心の置き方にあります。乗馬で下り坂を降りる時、騎手は体重を後ろにかけるように教わります。投手も前足をあげてから体重を移動する際に右肩を一度落として、体重を後ろに残しながら前足を着地させることが効率的なメカニックなのです。

 昔は選手の身体動作を映像で残すことができなかったため、野球界では一流選手の感覚に頼った技術論が「常識」として伝承されてきました。しかし、現在は少年野球ですら選手のメカニックをビデオ録画して繰り返し見ることができます。従ってこれからの時代は身体動作の「感覚」と「実際の動き」を検証しながら、両者のギャップが限りなく少ない「言葉」を選び出して指導の現場で活かす工夫が必要だといえるでしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿